肝臓
肝臓は三大栄養素(糖、タンパク質、脂肪)やビリルビン、ホルモンなどの代謝を行います。
糖代謝
体の維持や運動には絶えずエネルギーが必要です。エネルギーとして利用できるもっとも重要な物質は糖質である「グルコース」です。食後は必ず血糖が上昇しますが、血糖が上昇するとグルコースはまず肝細胞内にグリコーゲンとして蓄えられます。そして時間がたって血糖が下がると蓄えられていたグリコーゲンが分解されてグルコースになり、血糖を調節しているのです。
タンパク質代謝
タンパク質は血液の膠質浸透圧の維持、物質の輸送、酵素反応、血液凝固などに関わっており、中でも「アルブミン」は血管内の浸透や物質の輸送に関係しています。
肝機能障害になると
血液中のアルブミンの濃度が下がると浸透圧が維持できなくなり水が血管内に漏出し浮腫みや腹水などの症状が出てきます。
脂肪代謝
脂肪の代謝に関して、脂肪酸、中性脂肪、コレステロール、リン脂質などの脂肪は肝臓が合成します。
ビリルビンの代謝
赤血球が壊れてできるビリルビンは黄褐色を呈します。血液中のビリルビンは肝細胞に取り込まれ胆管に排泄された後十二指腸に流れ込み消化管に達します。そこで食物と混ざることで消化吸収を助け便を黄土色にします。
肝障害や胆管の流れが悪くなる(胆管結石、胆管腫瘍、胆管の炎症など)と、胆汁の流れが悪くなり血液中のビリルビンが濃くなり黄疸を呈します。最も最初に黄疸が目立つのは眼球結膜です。また尿の色も茶系が濃くなります。
血液の凝固
肝臓は血液凝固に関わっている「凝固因子」を作っています。肝障害がひどくなると、凝固因子が低下し出血しやすかったり、血が止まりにくくなります。
解毒
薬物、アルコール、毒素など体外から進入した物質を代謝して無毒にする役割もあります。
肝機能が低下すると
体内で生じた代謝物質が血中に蓄積されてしまいます。
これが脳に達すると精神障害をも引き起こす原因になります。
肝臓の病気
肝臓の構造
肝臓の重さは約1,200g です。おなかの右上にあって主に代謝の中枢として活躍します。肝臓は主に肝細胞と胆管細胞からできています。肝臓の細胞の80%が肝細胞で肝臓の大切な機能を担っています。肝細胞は、となりの肝細胞同士とくっついて「肝小葉」を形成します。「肝小葉」が約100万個集まり、肝臓を構成しているのです。
また胆管細胞で構成されている胆管は胆汁を十二指腸に送ることで食物の消化を助けます。便が黄土色しているのはこの胆汁の色なのです。内臓を流れる血管は、通常内臓を養う動脈とその流出路である静脈に分かれます。しかし肝臓にはその2つの血管以外に胃腸や脾臓から静脈が集まる「門脈」という血管があります。門脈に流れてくる血液には腸から吸収された食物の栄養がたっぷり含まれていて肝臓はそれを取り込んで体の需要に応じた代謝をしています。肝動脈と門脈から流れ込んでくる血液は肝静脈を通って肝臓の外に出て体を巡ります。
肝臓のしくみ
『肝臓が悪い』『肝機能障害がある』等と言われた方へ
本人は無症状の場合が多いですが、健康診断や内視鏡検査手術前の検査でたまたま指摘されることが多いです。
普通医師は血液検査の結果、血液中のGOT 、GPT が異常に高い時に、『肝臓が悪いですね』とお話しします。GOT 、GPT とは肝細胞が壊れる際に上昇する酵素の名前です。肝臓の細胞にはこれらの酵素がたくさん入っており、その中で一生懸命働いています。ところが肝細胞が壊れると、これらの酵素が血液中に漏れ出てきて、血液中のGOT 、GPT の値を上昇させるのです。値が高ければ高いほど、たくさんの肝細胞が壊れていることになります。
原因には、ウイルス、薬剤、アルコール、自己免疫、代謝など、いろいろありますが、原因によっては重い肝臓病である肝硬変へと進行していきます。しかもその多くは無症状であり、症状がでる頃にはすでに病気はかなり進行しています。このようなことから『肝臓が悪い』と言われたら、症状がないからといって決して安心しないで、精密検査を受け、手遅れにならないうちに、適切な治療を受ける必要があります。
慢性C型肝炎
肝臓病のなかでもウィルス感染によるC型肝炎は、肝硬変、肝癌へと進展するため、早期に適切な治療が必要とされています。そこで近年、肝炎ウィルスを除去するために、インターフェロン療法の有効性が注目されています。インターフェロン療法が著効した症例では、慢性肝炎、肝硬変の肝癌累積発生率が有意に低下するとされています。
最近では、インターフェロンの再投与も保険で認められるようになりました。
C型ウィルス性肝炎とはどんな病気?
C型慢性肝炎はC型肝炎ウィルスの感染により肝臓に障害が起こる病気で、初期には症状はほとんどありませんが、病気が進行すると様々な症状がみられます。過去に輸血をしたことのある方、医療機関で手術をしたことのある方、家族に肝臓の悪い人がいる方は注意が必要です。 C型慢性肝炎の大部分が進行性で、知らないうちに肝硬変、肝臓ガンへと進んでいってしまいます。肝硬変になると肝臓だけでなく食道静脈瘤の破裂や肝性脳症など命に関わる重大な合併症が起こりやすくなります。
感染から発症までの経緯は?
肝炎ウイルスが感染してから慢性肝炎が起こるまでの経緯としては、ウイルスが増殖して肝臓を食い尽くしてしまうというより、ウイルスVS免疫力との戦いの結果、戦場である肝臓が破壊される為だと考えられています。C型肝炎ウイルスは免疫力の攻撃を巧みにかわし正面衝突を避けようとするため、肝臓はすぐに燃え尽きずに、くすぶるように肝炎が持続します。しかし長年にわたり肝炎が持続すると、ついに肝臓は荒廃し肝硬変という状態に至り、その中から肝癌がでてくる場合があるのです。
どうして感染するの?
C型肝炎ウイルスは血液により感染します。したがって、輸血や血液製剤による感染は確実で、鍼(ハリ)、刺青(イレズミ)、予防注射のまわし打ち(今ではされません)、歯科治療(器具からの感染)、理髪店の髭剃り、ピアスからの感染の可能性も考えられています。また、男女間、母児間感染もまれならず認められています。検査の進歩により、輸血や血液製剤による感染はなくなりましたが、今でも感染経路が不明の患者さんが4割程度存在し、C型肝炎を撲滅するにはもう少し時間がかかるのが現状です。
感染後の経過は?
C型肝炎ウイルスに感染した後は、2 ~24週で急性肝炎になり、7割程度が慢性肝炎に移行します。その後はゆっくりと進行し、一部は約20年で肝硬変症、さらには肝癌へと進展します。慢性肝炎の時期には自覚症状がほとんどありませんので、ときどき血液検査をして肝臓の状態を把握しておくことが大切です。
C型慢性肝炎の診断は?
血液検査でHCV抗体が陽性でその値が高い、もしくはウィルスの遺伝子(HCV RNA)の検査が陽性のときは、C型肝炎ウィルスの持続感染者(キャリア)ということになり、定期的な検査と十分な健康管理が必要になります。肝機能がどのくらい保たれているか、肝炎がどの程度進んでいるかを知ることは治療計画を立てる上で重要です。
血液検査にてAST(GOT)やALT(GPT)の値を、画像検査(超音波、CT)で調べます。
治療法は?
C型慢性肝炎の治療は、C型肝炎ウィルスを体内から排除して感染からの治癒を目指す原因療法と、肝機能を改善して肝炎の悪化を防ぐ対症療法(肝庇護療法)があります。
インターフェロンの登場によりウィルスの完全消失が認められるようになりました(約30%)。またウィルスの完全消失がみられなくても、肝硬変や肝臓ガンへの進行がくい止められます。インターフェロン療法を受けた患者さんの約2/3で、生命予後の改善が得られます。
ウイルス排除と肝炎の治癒に関して有効性がはっきり認められている薬はインターフェロンです。治療中は ウィルスを強力に抑制し、肝炎を鎮静化します。しかし ウィ ルスの型や量によっては治療後に再燃することが多いのが実情です。さらに長期に治療を続ければ治療効果が上がることは確実なのですが、インターフェロンの保険適用期間が厳しく定められているため治療期間の延長は困難です。したがって保険適用枠内で、投与法を工夫したり、いろいろな薬剤を併用したりしています。最近は落ち着いた慢性肝炎(従来の慢性非活動性肝炎)に対してもインターフェロンが使用できるようになったため、感染後なるべく早い時期に治療を開始することで、治癒する患者さんが多くなるのではないかと期待されています。
インターフェロンとリバビリンの併用療法
インターフェロンにリバビリン(抗ウィルス薬)を併用すると、その効果が大きく高まることが明らかとなり、海外ではC型慢性肝炎の標準的治療となっています。 またインターフェロン再投与(前回インターフェロン療法無効例もしくは再発例)の場合にも同様に効果が大きく高まることが判りました。
インターフェロンの治療効果は?
ウィルス が完全に体内から排除でき、肝炎が完治する率は約30 %です。ウィルスが完全になくならないまでもウィルス量が減少し肝炎自体もよくなるという方も含むと半分近くの人に非常に大きな効果があります。肝炎には条件により効きやすい場合と、効きにくい場合とがあります。C型肝炎には6つの型があります。
日本では1bが70 %と多く、2a型は20 %、2b型は10%程度です。ウィルスの量が多いか少ないかや、肝炎の進行度も治療の効果に大きく作用します。
インターフェロンの副作用は?
インターフェロン療法の副作用には、うつ病などの精神神経症状、インフルエンザ様症状(とくに発熱や倦怠感などは必ず出ますがごく初期にみられるだけで、この時期は入院で治療するので心配ありません)、脱毛、発疹やかゆみなどの皮膚症状があります。またリバビリン併用時に多くみられるのが貧血(ヘモグロビンの減少)です。また、妊婦、または妊娠している可能性がある方、授乳中の方、これから子供を作りたいという女性は使用できません。
日常生活上の注意はありますか?
C型肝炎ウィルスは感染している人の血液が他の人の血液に入ることによって感染しますが、その感染力は弱く、日常生活での感染は非常にまれです。しかし症状はなくてもウィルスが存在するかぎりは、自分が病気であるという認識をもって、定期的な外来受診を欠かさないことが大事です。