食道の病気

マロリーワイス症候群

病態

嘔吐により腹腔内の圧力が急激に上昇し胃-食道の接合部付近に裂け目ができ出血し、吐血、下血を来たす疾患。 原因はアルコールのほか薬剤、妊娠悪阻、乗り物酔い、内視鏡検査などによる嘔吐、怒責による。

症状

嘔吐を繰り返すうちに吐物に血液が混じる事から始まります。90%以上に吐血あるいは下血を主訴とします。

検査

上部内視鏡検査(胃カメラ):内視鏡により胃-食道接合部の食道下端から噴門部(胃の入り口)に縦走する粘膜の裂け目を認めます。

治療

内視鏡検査時に出血している場合は止血処置を施します。基本的に入院の上、 絶飲食とし、出血の重症度に応じて輸液、輸血を施します。

突発性食道破裂

病態

強い嘔吐や出産などで強い腹圧がかかった時に、食道の下端が破裂する疾患です。これは緊急に手術をしないと命にかかわる怖い病気です。

症状

嘔吐に続いて突然に強い胸痛や腹痛、呼吸困難を呈します。ただちに緊急手術をしないとショック状態になり死亡してしまいます。

検査

胸部レントゲンで胸の中に空気が漏れているのがわかります。

治療

救命手術が必要です。

逆流性食道炎

病態

胃酸や胆汁が食道に逆流し食道の粘膜が炎症を起こす疾患。食道裂孔ヘルニアのある人や胃の手術後(胃切後)の方、気管支喘息を持っている方に多く見られる。

症状

胸焼けが主症状ですが、進行すると心窩部(みぞおち)の痛みを訴えることもあり、心臓疾患の発作と紛らわしい場合があります。つよい炎症が続くと、ものが飲み込みにくくなったり、咳が出たり、出血したりすることもあります。

検査

上部内視鏡検査(胃カメラ):内視鏡により胃-食道接合部の炎症を認めます。

治療

内服薬により胃酸の中和を図ります。
攻撃因子(胃酸)抑制薬:プロトンポンプインヒビター(PPI)/H2ブロッカー(H2B)

カンジダ性食道炎

病態

カンジダはカビの一種です。カビが食道に生え、炎症を起こした病気です。
高齢の方や免疫力が弱い人(糖尿病、術後、強い抗がん剤治療を受けた人、ステロイド剤を飲んでいる人)がかかります。

症状

胸の奥の焼けた感じや喉のつかえ感があります。

検査

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)により、食道にボツボツ生えている白いカビを認めます。一部採取し、顕微鏡検査や培養検査にて確定診断が得られます。

治療

カビに効く抗生物質の内服。

良性食道腫瘍

病態

食道にできた良性腫瘍で、治療の必要性はあまりありません。

症状

基本的に無症状ですが、大きくなると物の通過が悪くなったり、違和感や胸の奥の痛みなどの症状がでます。

検査

消化管造影検査:バリウムにより食道の造影検査をします。
上部内視鏡検査(胃カメラ):内視鏡による食道の観察が最も効果的です。

治療

小さいものは内視鏡にて切除できます。大きいものでも生検(細胞検査)により良性の診断を得れば、経過観察とし定期的な検査を心がけます。

食道憩室

病態

「憩室」とは壁にポケットのようなクボミができたものです。食道に憩室ができたものが食道憩室です。高齢の男性や結核の後の癒着でしばしば見られます。

症状

無症状ですが、憩室が炎症をおこすと胸の痛みや、出血を呈します。

検査

  • 消化管造影検査
    バリウムにより食道の造影検査をします。
  • 上部内視鏡検査(胃カメラ)
    内視鏡による食道の観察が最も効果的です。

治療

普通は治療の対象にはなりませんが、症状が強いとき、出血を呈しているときは治療を施します。憩室が破れて穴があいてしまうと、緊急手術が必要になります。

食道潰瘍

病態

食道にできた潰瘍性病変です。逆流性食道炎の悪化や食道内異物の粘膜の圧迫、カビやウィルスの感染症などでも潰瘍ができます。

症状

胸痛、強い胸焼け、食道のつかえ感。進行すると食道が狭窄(狭くなる)し食事が通りにくくなります。

検査

消化管造影検査:バリウムにより食道の造影検査をします。
上部内視鏡検査(胃カメラ):内視鏡による食道の観察が最も効果的です。
潰瘍の位置、かたちから原因を推測します。

治療

潰瘍のできた原因に対する治療を行ないます。逆流性食道炎の悪化に伴うものは制酸剤を使用します。カビやウィルスの感染症が疑われる場合は菌、ウィルスを除去するための治療を行ないます。

食道アカラシア

病態

食道-胃接合部の緊張が強く、食道から胃に食物が流れていかない状態をアカラシアといいます。当然、食べたものは食道に貯まって、胃に流れない為、食道は拡張します。20代から40代に多い。

症状

初期症状は、慢性的な水分の飲みにくさから始まります。進行すると、食道内に貯まったものが逆流し睡眠中にむせて眼がさめることがあります。気管に誤嚥してしまうと肺炎を呈してしまいます。

検査

  • 消化管造影検査
    バリウムにより食道の造影検査をします。食道内のバリウムが胃に流れにくい様子や食道の拡張を見ます。
  • 上部内視鏡検査
    (胃カメラ)内視鏡による食道の観察によりガンなどの病変がないことを確認します。
  • 食道内圧検査
    食道-胃接合部の緊張状態を測定します。

治療

  • 薬物療法
    カルシウム拮抗剤などにより内臓の筋肉の緊張を和らげる薬を服用します。
  • バルーン拡張術
    薬物療法にて効果が得られない場合は内視鏡を使って、食道-胃接合部を強制的に拡げる治療を行ないます。内視鏡から風船を出して狭窄部に挿入し膨らませることによって拡張を試みます。
  • 外科的手術
    上記の治療方法が無効な場合は手術の適応になります。

食道がん

病態

食道にできる悪性腫瘍。60歳以上の男性に多く、度のアルコール、喫煙、熱い食餌などの常用が誘因となります。

症状

早期には「わずかにしみる」程度や「わずかな前胸部痛」が時々自覚する程度である。進行すると食事中の嚥下困難や体重減少、反回神経という神経に浸潤すると嗄声(させい:かすれた声)となり気管支まで浸潤すると咳嗽(せき)や痰が著明になり肺炎を呈する。

検査

  • 上部消化管造影(バリウム)
    食道を造影します。
  • 上部消化管内視鏡検査
    内視鏡で食道の内部の状態を直接見ます。早期のガンは小さくて肉眼だけでは見えにくいこともあり、色素(ルゴール液)で着色して精密検査を行います。色素を使うと、病気の部分をはっきりと区別して観察することができます。最終的には、生検(組織を採取して、顕微鏡で診断します。)また、食道ガンと診断された場合、転移がないかを調べるために、CTや超音波検査を行います。

治療

上皮内癌(早期のうちさらに、粘膜内に留まるもの)

早期の食道がん
  • 内視鏡的粘膜切除術
    小さい早期ガンの場合は、内視鏡を使って切除が可能です。
    ガンが直径3cm以下で、食道の粘膜の表面に留まり、深く進行していないことが条件となります。
  • フォトダイナミックセラピー(PDT)
    アルゴンレーザーによる焼却します。
  • 放射線療法
    放射線を定期的に照射します。

進達度が粘膜下層以上の癌

進行した食道がん
  • 切除が可能であるならば、手術が選択されます。病巣部を含めた食道切除+リンパ節郭清+胃吊り上げ+化学療法(抗がん剤)
    他の臓器に転移が見つかった場合には、手術の前に化学療法や放射線療法を行うこともあります。
  • 手術ができない場合(手術で取りきれない場合)は、化学療法と放射線療法を行います。
    非常に進行した段階で発見されて、食事ができないなどの問題がある場合には、食道の中にパイプを通したり(食道ステント術)、パイバスを作ったりして、とりあえず食事を通すための治療をすることがあります。

食道静脈瘤

病態

肝硬変をはじめとする肝疾患の際に門脈圧が亢進し、食道の内側の静脈が太く蛇行した状態をいいます。程度の軽いものは特に心配ありませんが、大きくなると、食道粘膜の壁が破れて、時として突然大出血を来すことがあります。
全身流れた血液は、肝臓に一度集まります。しかし、肝硬変などの肝臓の病気がある場合、肝臓にたくさんの血流が戻れなくなります。
肝臓もどれなくなった血液は、抜け道を求めて、肝臓のまわりの細い血管に流れていきます。
食道の細い血管にも、肝臓に戻れなかった血液があふれて流れ込んできます。本来、細かった血管も、流れる血液の量が多くなると次第に太くなり、コブ状に膨れます。これを「静脈瘤」と呼びます。

症状

小さなうちは症状は特にありません。しかし、肝臓の病気、特に肝硬変と診断されている方は、定期的な食道の検査が必要です。

検査

上部消化管内視鏡検査:内視鏡で見て診断します。1占拠部位 2形態 3基本色調 4発赤所見 5出血所見 6粘膜所見にて評価し、破裂の危険を予測します。

判定因子 記号 細分
1 占拠部位 L Ls 上部食道まで認める静脈瘤
Lm 中部食道まで認める静脈瘤
Li 下部食道まで認める静脈瘤
Lg  胃静脈瘤 Lg-c:噴門輪に近接する静脈瘤
Lg-f:噴門輪より離れて孤在する静脈瘤
2 形態 F F0 静脈瘤として認めないもの
F1 直線的な細い静脈瘤
F2 連珠状の中等度の静脈瘤
F3 結節状あるいは腫瘤状の太い静脈瘤
3 基本色調 C Cw 白色静脈瘤
Cb 青色静脈瘤
4 発赤所見 RC RC(-) 発赤所見をまったく認めない
RC(+) 発赤所見を限局性に少数認める
RC(2+) RC(2+)と(3+)の間
RC(3+) 発赤所見を全周性に多数認める
5 出血所見
出血中の所見 噴出性出血
にじみ出る出血
止血後の所見 赤色栓
白色栓
6 粘膜所見 E びらん
Ul 潰瘍
S 瘢痕

治療

治療には、急性出血例に対する緊急治療と、待機予防的に行なわれる治療の2つがあります。

  1. 緊急治療
    まず出血による全身状態の安定を図ることが大事です。輸液にて循環血液量(全身をまわる血液量)の維持や、出血に応じて輸血なども施行します。そして、出血部位を調べるために、緊急で内視鏡検査を行います。
    静脈瘤の破れている部位が見つかったら、そこを輪ゴムで縛ったり、硬化剤と呼ばれる血管を固める物質を投与して止血をします。しかし出血量が多く、内視鏡をやっても、血だらけでどこから出血してるかわからない、という場合にはSBチューブとよばれる風船を食道に入れてふくらませ、食道を内側から圧迫して止血を試みます。そして、とりあえず止血をした後に後日、残った静脈瘤をきちんと治療します。(2.予防的治療へ)
  2. 予防的治療
    療静脈瘤が破裂しそうな場合、破れる前に治療を施します。
    1. 内視鏡的静脈瘤結紮術EVL
    内視鏡から、輪ゴムを使って静脈瘤を縛ってつぶします。
    2. 内視鏡的硬化療法EIS
    血管内を硬める物質を静脈瘤に注射します。

通常これらの治療を組み合わせて行うのが一般的です。
治療を行った後も定期的に内視鏡検査を受けて、再発がないかをチェックします。
また、静脈瘤ができた原因(肝疾患)に対しても検査・治療が必要です。

治療前
治療後

内視鏡的静脈瘤結紮術EVL

静脈瘤を吸引する
リング(ゴム輪)を押しだし静脈瘤を縛る
あとは壊死して脱落を待つ

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